大判例

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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)3390号 判決

控訴人(原告)

前田金属工業株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

小野昌延

山上和則

西山宏昭

被控訴人(被告)

株式会社マキタ

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

片山欽司

井上尚司

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、原判決別紙目録(二)ないし(五)記載の各シャーレンチを製造し、販売し、販売のために展示してはならない。

三  被控訴人は、控訴人に対し、二五二八万六〇〇〇円及び

1  内三〇四万円につき平成六年七月九日から

2  内二二二四万六〇〇〇円につき平成九年一二月二日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

五  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、特殊電動工具であるシャーレンチを製造販売する控訴人が、被控訴人の製造販売する各シャーレンチは控訴人の製造するシャーレンチの商品形態に類似しており誤認混同が生じるおそれがあるとして、不正競争防止法二条一項一号・三条・四条・五条に基づき、被控訴人製品の製造等の差止と損害賠償を求めた事案である。

請求原因とその認否・争点・争点に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」中の「第二 当事者の主張」(原判決三頁八行目から同五七頁五行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(以下、控訴人を「原告」・被控訴人を「被告」という。)

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も原告の請求は理由がないものと認定判断する。その理由は、次に付加・訂正する他は、原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」(原判決五七頁七行目から同八五頁一〇行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

【原判決の訂正等】

1 原判決六二頁六行目「競争」を「自由かつ公正な競争」に改め、同行目の次に改行して、次のとおり加える。

「 また、ある商品がいくつかの基本的な構成要素からなるとき、各構成要素の組合せ方には自ずと一定の限度があるから、特定の組合せが当該商品の実質的機能を達成するための要請に直接由来するものでないときであっても、各構成要素の具体的な形態を離れてその組合せ自体を特定の商品主体の商品表示として保護することは、一定の組合せを特定の商品主体に独占的に利用させることとなり、この点でも、業者間の自由かつ公正な競争を阻害する結果を招来する。」

2 同六三頁二行目の次に改行して、次のとおり加える。

「 また、直接には商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態ではなくても、商品の基本的構成要素の組合せ方自体は、その各構成要素の具体的形状を離れては同号の商品表示として保護されることはないものと解するのが相当である。」

3 同六七頁三行目「配置」の前に「一列に」を加える。

4 同六八頁九行目から同六九頁三行目までを次のとおり改める。

「そうすると、原告が主張する原告の出所を示す商品表示としての原告製品の特徴のうち、①本体部とソケット部を水平に連結し、これに垂直に、略『T字形』になるようにモーターハウジング部を配置することと、②モーターハウジング部とハンドル部を一定の間隔を空けて平行に配置し、かつ、ハンドル部の上端を本体部の後端下部に垂直に配置することとは、いずれも主としてシャーレンチの実質的機能を達成するための構成であり、かつ、シャーレンチの基本的構成要素をその具体的形態を離れて組み合せたものというべきである(ハンドル部の形状を角張った形とし、モーターハウジング部と併せて角張ったD字形を形成するようにした点は、実質的機能の達成に直結した構成ではなく、具体的形態というべきである。)。」

5 同七一頁一〇行目「良い形状」から同七二頁三行目までを次のとおり改める。

「良く、さらにハンドルを持ったときに安定感のある形状は、比較的少ない(他にはモーターハウジング部を斜めに配置し、本体部とハンドル部とで直角三角形を形成する構成なども考えられる。)上、そもそも、各基本的構成要素の組合せ方がいかに多様にあろうとも、その組合せ自体は、各構成要素の具体的形態を離れては、商品表示として保護されるものでないことは前示のとおりである。」

6 同七二頁四行目「すべて」から同六行目「困難」までを、「ハンドル部で角張ったD字形の弧を形成するとの部分を除けば、主として、実質的機能を達成するための構成に由来する形状であるか、シャーレンチの基本的構成要素の組合せの一つにすぎない」に、同九行目「もっぱら」を「主として」に、それぞれ改める。

7 同七三頁初行末尾に「(なお、『ハンドル部で角張ったD字形の弧を形成する』との具体的形状に関しては後記のとおり)」を加える。

8 同七三頁二行目「形態は、」の次に「主として、」を加え、同三行目「形態である」を「形態であるか、具体的形態を離れた基本的構成要素の組合せ自体に他ならない」に改める。

9 同七三頁九行目から同七四頁七行目までを次のとおり改める。

「(1) 本体部は、表面がなめらかに仕上げられたアルミ製かまぼこ形のギアハウジング部を、前部を上に後部を下に二段にずらして重ね、これに鉄製黒色円筒形のインターナルギアに同形のアウタソケットホルダを挿入し、これらとソケット部を順次一列に連結してなり、

(2) モーターハウジング部は、全体がほぼ黒色(他にオレンジ色・銀色のもある)アルミ製の略円筒形で、上部と下部にそれぞれやや大きめの黒色円還(その右側にはさらに二重の輪を描いた円盤を縦に付設している)を付し、最下部に中心部とほぼ同じ円筒部を各形成し、その上部は本体部のほぼ中央に垂直に配列し、

(3) ハンドル部は、断面略四角柱状の銀色アルミ製でやや斜めに配置し、その上部をギアハウジング部後半分に突出してほぼ垂直に連結し、その下部をモーターハウジング部の下部に屈曲して連結し、その前方上部にモーターハウジング部に向けて青色スイッチレバーを設け、

(4) 垂直なモーターハウジング部と角張ったハンドル部とで角張った略『D字形』を形成し、

(5) モーターハウジング部の右側中央に、原告商標・原告商号・製品規格を表示したプレートを付したシャーレンチ」

10 同七四頁末行「まさに」から同七五頁三行目までを次のとおり改める。

「通常は商品の自他識別標識とされる主要な要素を除外したものとなり、基本的な構成要素とその具体的形状のみであるということになるが、このうちシャーレンチとしての基本的な構成要素の組合せの部分は、各構成要素の具体的形態を離れては、商品表示として保護されるものでないことは前示のとおりである。そして、右部分を除いた原告主張の具体的形状のみが原告商品の商品表示として自他識別機能を取得したと認めるべき証拠は十分でない(原告が本件で提出している各種資料も、色彩や材質、ラベル・銘板等の具体的形態を含む商品全体の周知性に関するものに他ならない。)」

11 同七六頁五行目「べきであって」から同七七頁五行目までを次のとおり改める。

「べきである。取引の対象となる時点で誤認混同を生じなかった商品が、その後の使用の過程で、例えば、商標を表示したプレートが剥がれ、商品の特徴とされていた色彩が薄れ、あるいは商品自体が変形するなどの変化が生じることによって、誤認混同を生じうる商品形態になったとしても、それを対象商品の製造者の責任に帰すことはできないから、取引時点以後に継続する使用状態下での商品形態を比較対照して誤認混同の有無を判断すべきではない。

(なお、原告は、使用時の誤認混同が次回の購入時の行動に影響を及ぼすと主張するが、取引者・需要者が次回の購入時に比較するのも、損傷や変化のない新商品についてであって、中古品の形態を比較の対象とするものではないから、右主張は根拠がない。)」

12 同七八頁六・七行目及び同八〇頁四行目の各「スリット上」をいずれも「スリット状」に改める。

13 同七八頁一〇行目から同七九頁初行までを次のとおり改める。

「イ ハンドル部は、全体がなめらかな曲線の黒色樹脂製からなり、下部にはくびれがあって上部に行くに従ってやや膨らみをもたせ、前方上部は丸みを持ったまま本体部後端下部に連結し、その連結部の直下にオレンジ色のスイッチレバーが設けられ、下部は前方に向けて正面視では平板で、底面視では徳利に似た形状の連結部によってモーターハウジング部下部に連結し、」

14 同七九頁六行目「張り付けられている」を「張り付けられ、かつ、下部にやや大きめの黒色円還(その右側にはさらに二重の輪を描いた円盤部を縦に付設している。)を付している」に改める。

15 同八〇頁七行目から同九行目までを次のとおり改める。

「イ ハンドル部は、全体がなめらかな曲線の緑がかった青色樹脂製からなり、下部にはくびれがあって上部に行くに従ってやや膨らみをもたせ、前方上部は丸みを持ったまま本体部後端下部に連結し、その連結部の直下にオレンジ色のスイッチレバーが設けられ、下部は前方に向けて正面視では平板で、底面視ではボーリングのピンに似た形状の連結部によってモーターハウジング部下部に連結し、」

16 同八一頁五行目「付した」を「付し、かつ、下部にやや大きめの黒色円還(その右側にはさらに二重の輪を描いた円盤部を縦に付設している。)を付している」に改める。

17 同八三頁一〇行目「ものの、」の次に、次のとおり加える。

「①ハンドル部は、原告製品が全体に角張った形状で太さは上下ともほぼ同一であるのに対し、イ号物件は全体がなめらかな曲線で上に行くに従って膨らみが増している点で、一見して明らかに形状に差異があり、②本体部も、アルミ製かまぼこ形のギアハウジング部を、前部を上に後部を下に二段にずらして重ねているのに対し、イ号物件は段差がない点で差異がある上、③原告商標等を表示したプレートの表示内容と被告商標等を表示したプレートの表示内容の差異も明らかであり、さらに④」

18 同八四頁二行目冒頭に「右各点の差異に照らすと、取引者・需要者にとって」を加える。

19 同八五頁九行目の次に、改行して次のとおり加える。

「なお、原告は、当審において、被告徳山営業所の従業員が被告シャーレンチを原告製品と誤認して、その修理について問い合わせをしてきたと主張し、甲六二を提出するが、乙五五の1・2に照らすと、右の主張事実を認めるに足りない。」

二  以上の次第で、原告の請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 小原卓雄 裁判官 山田陽三)

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